NHKテレビ「プロフェッショナル 仕事の流儀」に登場し大反響!
福岡県警少年サポートセンターで21年間2000人に関わった、非行少年と親たちへの支援の記録。
虐待による愛情飢餓、非行に走った子どもの立ち直りを、長い時間をかけて母親代わりに見届ける。
・兄は祖父に殴り殺され、母は薬物依存に──万引き常習少年との出会いと成長。
・7人の父親を持ち、母にラブホテルにまで付き合わされた孤独な少女。
無断外泊や大暴れの日々から、自身が母親になるまでの長い交流。
・父親からの性暴力を告白した少女の、「生きる」決意と支援者としての活動。
・両親が逮捕され、社会に拠り所を失った少年をどう救うか。「信用できる大人」とは?
・子どもの非行防止に、親が心がけるべきこと=「親子の愛情形成」のアドバイス。
【目次】
1 異色の職場に辿りつくまで
2 小学生の無免許バイク登校
3 あの日の出来事の記憶
4 7人の父を持つ少女——連鎖を食い止めろ
5 性虐待を受けていた女の子——這ってでも生きる
6 引きこもり少年の家庭内暴力
7 「重大事件加害者の息子」として
8 ネグレクト家庭でのトラウマ
9 初回面接——親の「愛着」と夫婦の家事分担
10 問題行動に隠されたメッセージ
11 我が子を非行に走らせないために
12 おわりに——ただただ寄り添う
【本文抜粋(第三章「あの日の出来事の記憶」より)】
「第一回は、盗みをすることで生じるメリットやデメリット、反対に盗みをやめることでのメリットやデメリットなどについて、振り返りをしていきます。すると、雑談では無言を貫いていたショウ君が少しずつ少しずつ、ポツリポツリと話をするようになったのです。またその内容が、的を射ていてキラッと光ります。盗みをするメリット、デメリットについても、『えっ、盗みって面倒くさいことばかりだ』と、自らその答えに辿り着いたのです」(p.51)
「私は、彼の心の奥深く閉ざされた傷のことが気になって、幼いころからの話に意図的に触れていました。するとあるとき、車の中でショウ君が急に私に、『親やったら自分の子どもを殺しても罪にならんと?』と訊いてきたのです。私が驚いて『え? なんで?』と言うと、『俺の兄ちゃんは祖父ちゃんに殴り殺されたのに、祖父ちゃんは捕まらんかったもん』と話し始めたのです」(p.53)
「ショウ君は母から注射をする際の血管を探すのがうまいと言われ、お風呂でお母さんがクスリを打つために血管を探す役が与えられていたそうです。お風呂にいる時が血管が出やすいからと、それでも日々見つかりにくくなって、ひどいときは二時間くらい、見つからないのに湯船の中で注射が成功するまで付き合わされます。失敗したら責任も重大で、次第にのぼせてしまって、母とお風呂に入ることが本当に辛くて仕方なかったそうです」(p.56)
「この社会で、高校の出席もままならず中途で辞めた子が、働きながら独立して生活するなんてどう考えても非現実的です。それはまだ早すぎると、児童相談所や施設の先生たちと協議をし、本人にもしっかり説明しました。すると本人は、「仕方がないから働くと言ったけど、本当は自信もなかったし怖かった」と打ち明け、無事通信制の高校に通わせてもらえるようになりました。実は施設の方針によっては、通信制の高校には行けない場合もあると聞きます。だからこの時は施設側も、この子のために大幅に譲歩してくれたのです。ここでも、この子の愛情のコップにはたっぷりと愛情が注がれたのではないかと思います。
こうして愛情のコップを満たしていくかのように、大人も一丸となってこの子の課題に向き合いました。いつか、頑張らなければいけないその時に、頑張れる子になるように」(p.60-61)