「鐘の降る街」：古い港町に、母と二人で暮らすデニという少年がいた。ある日突然、デニの前に、父親だと名乗る男が現われる。長い不在などなかったかのように父親として振る舞う男に、デニは惹かれながらも反発する。
一方、デニを溺愛する母サマロダは、かつて愛しながら自分を捨てた男の出現に動揺し、デニを連れ去るのではないかと警戒する。男はデニに、土産だと言ってギターを贈るが、それを見たサマロダは逆上し、路に走り出て事故に会ってしまう。
サマロダは亡くなり、父の誘いも断って、天涯孤独を選んだデニの、旅が始まる。
「群青夜曲」：父母を失い、独りあてどなく荒野に彷徨い出て行ったデニは、旅芸人の一座に拾われる。座長のビノウは、デニの演奏家としての才能を見抜く。一座で女役をする花形スターの美少年イザイは、デニに懐く。
そんな一座の中に、不思議な老婆モルダがいて、デニに異様な執着を見せる。モルダは、かつて一世を風靡した踊り子だった。その昔男に騙されて、精神を病んだモルダをビノウは大切に扱う。
時間の流れを理解できなくなっているモルダは、デニを自分のかつての恋人だと思い込み、ある夜、ナイフで襲う。デニは軽いケガをするが、その場でモルダは心臓発作をおこし倒れた。デニはいつかモルダに自分の母の姿を重ね、意識の戻らぬモルダの傍らに寄り添う。
ビノウはデニを一座に引き入れることを諦め、自分の町に帰るように促す。デニのなかにも、町にいる友人、エルマやソーヤへの思いが蘇り、荒れ野を去ることを決心するのだった。
前著「ラブソングの生まれる惑星」のスピンオフ。エルマやソーヤにとっては特別な存在でいながら、いつも一人で放浪している少年デニの、生い立ちや成長を描く物語。